F1 オーストリアGP

 いろんな事が起こったGPだった。

 まずオープニングラップの1コーナーから、フェラーリの1−2体制が確定してしまった。スタート前に鈴木亜久里近藤真彦が解説していたが、コースのイン側は通常レースでは走行しない部分なので埃が溜まっており、スタートはかなり厳しかったようだ。そのため、アウト側の1、3、5番グリッドだった3台が前に行った。ハイドフェルドは一瞬だけ3番手を走行。マッサは行き場をなくしてコース外に押し出された。
 更に混乱は続く。JVがフレンツェンの車をコース外に押し出した。その前にフレンツェンはベルノルディに追突されていた。それもあってかベルノルディはピットイン、リタイアとなる。デ・ラ・ロサも1周目でスローダウン。ライコネンもストレートでエンジンが白煙を吹きコース外に止める。マッサもリタイアする。フリー走行で好調だったフレンツェンアーバインを抜こうとプッシュしてコーナーでスピン。大きく後退する。
 レース中盤にさしかかったところで、パニスの車に異変。ブレーキがロックしてスピン、コースの真ん中に車を止める。それを撤去するためセーフティーカーが入る。最終ラップでJVの車にもトラブルが発生(エンジンが火を噴いていた)ので、もしかしたら同様のトラブルなのかもしれない。このタイミングでフェラーリの2台、そのほか何台かもピットインする。フェラーリピットインの間にラルフが2位浮上。
 レース再開直後、ハイドフェルドがコーナー直前でスピン。コントロールを失って、コーナーを曲がった直後の佐藤琢磨接触。大クラッシュとなる。JPMも一瞬の差で巻き込まれるところだった。このため再びセーフティーカーが入る。まずハイドフェルドが助け出されたが、琢磨がなかなか連れ出されない。何人ものドクターが集まり、かなりの時間がかかってようやく助け出され、ひとまずメディカルセンターに運ばれた。琢磨は脳震盪をおこしているが外傷はなく、念のため病院へヘリで移送され精密検査をすることになった。かなり長い間セーフティーカーがレースを先導し、ウイリアムズ以外のほとんどのチームが1度目のピットストップを終える。
 アーバイン、ユーン、トゥルーリがいつの間にか消えていた。ジャガーは2台ともリタイア。パフォーマンス云々よりも、いささか信頼性が低すぎるようだ。ニキ・ラウダの発言も単なる負け犬の遠吠えとしか聞こえない。
 レース終盤、ウイリアムズのピット作業でラルフとJPMの順位が入れ替わる。フェラーリの2台は残り10週で2度目のピットイン。2度のセーフティーカーにも何ら影響を受けることなく1−2体制を堅持していた。
 こうなってくると、解説の方々の興味は「昨年のオーストリアGPの様に、チームオーダーが出てバリチェロは前を譲るのか」に移った。同等のスピードを誇るF2002同士で、既にシューマッハの腕をもってしても残り10週ではいかんともしがたい差が開いていた。ここまでバリチェロは不運続きで、ポイントは2位が1度のみ。まだまだシーズン序盤で、ウイリアムズの2人が迫っているとはいえその2人の合計ポイントをMS一人で上回っている現状である。
 さすがにチームオーダーはないだろう、と思っていると、不自然なくらい2台のギャップが縮まってきた。明らかに、最後にセーフティーに行くといういつものレベルではない。最終コーナーを立ち上がったときはまだバリチェロはトップだったが、昨年同様ゴール寸前でMSにトップを譲った。
 これにはMSの準地元ともいえるオーストリアのファンからもブーイングが起きた。MSもさすがにチームオーダーに驚いた様子で、車を降りて真っ先にバリチェロの元に行った。表彰台でもバリチェロを真ん中に立たせて、優勝カップを受け取らせていた。レース後の記者会見でも笑みはなかった。バリチェロは昨年とは違い、多少こわばった表情ながらも笑顔で記者会見をしていた。
 フィジケラが5位入賞、今期ジョーダン初のポイントとなる。これでポイントを獲得していないチームはBARのみとなった。パフォーマンスとしてはBARの方がいい印象だったのでこの結果は意外。相変わらずトヨタは信頼性はあるが速さが足りない模様。ミナルディは取りあえず完走できたのがすごい、としておこう。


 はっきりいってしまえば、少し興醒めしてしまった。


 確かに、チームオーダーを出すチームだということは以前からわかっていたことだし、昔からチャンピオン争いをするチームには付き物なことではある。なにせミカ・ハッキネンとMSがタイトル争いをしていた頃のロン・デニスが批判されるような世界である。あのころのマクラーレンは強くて、ハッキネンを脅かす存在がMSの他にチームメイトのクルサードだった。それでもあえてロン・デニスチームオーダーを出さずに2人のドライバーを競わせると行ったスタイルを貫き、ハッキネンは見事チャンピオンとなった。
 それに対してフェラーリは、昨年のオーストリアバリチェロに2位を、’99はミカ・サロやMSに対してさえもチームオーダーを出してトップを譲らせている。ただしそれは、チャンピオン争いがタイトになっていた時期でもあり、その結果次第でワールドチャンピオンになれるかどうかがかかっていたので一概に批判もできない部分がある。だが今回はあまりにも状況が違いすぎる。

 今回の件で、バリチェロはワールドチャンピオンどころか、優勝すら難しい、ということが示された。ファイナルラップまでトップだったとしても、今後もバリチェロはある特定の条件下でしか優勝できなさそうである。その条件とは
 1.MSが既にリタイアしている
 2.バリチェロとMSの間に他のドライバーがいる
 3.MSが既にタイトルを確定させている
 4.バリチェロが常にMSを圧倒し続け、タイトル獲得の可能性が高い
 5.MSの契約内容が変わる(ファーストドライバーでなくなる)
といったところだろうか。

 フェラーリチームオーダーに対して既にいくつもの批判が出ている。ドライバー、監督、テクニカルディレクター、チーム関係者等々。なんとブラジル大統領までもが声明を発表したらしい。F1視聴率の低下を懸念する方面からも批判は出るだろう。
 ウイリアムズのパトリック・ヘッドは特に辛らつなフェラーリ批判を行っている。ただし、これに対してデーモン・ヒルは疑問を投げかけている。かつてアラン・プロストがウイリアムズにいたときはそうではなかったのではないか、と。トップチームでフェラーリを批判する資格があるのは、ある意味マクラーレンロン・デニスだけだともいえる。

 はっきりしたのは、チャンピオン争いでバリチェロはMSのライバルになり得ないということ。他のチームがフェラーリの快進撃を止めることに期待するほかない。今期ここまで観てきて、可能性があるのはウイリアムズのみと思われる。ウイリアムズがチャンピオン争いに絡んできたときに、フランク・ウイリアムズやパトリック・ヘッドがどういった決断をするかが見物である。

 追記その1。北川えりさんへ。スタート予想のときに「琢磨選手のロケットスタートに期待したいですね」以外のことをしゃべろうよ。それ聞き飽きました。

 追記その2。フジテレビのレース実況をしていたアナウンサーさんへ。あまりにしゃべっている内容に誤りが多すぎます。
 「佐藤琢磨はスタートに失敗。大きく順位を落として・・・」って順位上げてるやん!
 「ベルノルディがパニスに押し出されて」フレンツェンがJVに、でした
 「ワンストップを済ませたウイリアムズに対して、もう一度ピットインしなければならないフェラーリは苦しいですね」まだウイリアムズピットインしてないんですけど・・・